- 作者: 山本博文
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/11/11
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 7回
- この商品を含むブログ (19件) を見る
本書で取り上げる時代は、1600年からおよそ50年にわたって展開された細川忠興・忠利父子の往復書簡の記録。往復書簡の記録と言っても、その一つ一つが詳細に紹介されている訳ではなくて、同時代に起きた事件や習慣など、いわゆる「武家のしきたり」などの歴史事象を紹介しながら、そこにまつわる書簡を紹介するといった趣だ。
もちろん、書状の説明など図解されているので非常にわかりやすいし、書状を引用するときは原文と訳を併記しているため、理解しやすいし何より当時の文章も知ることが出来る。
著書の山本博文氏は東京大学の史料編纂所教授であり、そこにある膨大な資料をまとめ、歴史的資料として活用しようとしておられるようである。たまに、NHKなどで歴史編纂所の様子が映し出されているが、全容ならずとも資料の多さは驚きを禁じ得ない。管理人の個人的心配事としては、あれだけ膨大な資料があって、地震があったら一体どうしようと思うのだが、果たして耐震設備並びに防火設備はあるのだろうか?
ところで、この時代、江戸幕府の確立期であった。言ってみれば「草創期」であり、そこには関ヶ原の余塵が全国に残っている頃である。逆に言えば、制度がまだ完成されていないからこそ、この頃に登場する人々の活躍が後の制度に影響が残すのであろう。
だからこそ、後の時代には見られない大名と旗本の親交などがあったりする。もちろんそこには宮廷社会化しつつある処世術の側面もあるのだが、やはりそこから情が出てくるのが人間らしいところだ。宮廷社会化しつつあった江戸城中で、各大名のそれぞれの思惑から、様々な行動を取っている。幕府に媚びを売る黒田家、独立自尊の島津家、政宗というカリスマによって一目置かれる伊達家、そして、幕府に恭順しつつも下手に出すぎないように細心の注意を払う細川家。
ところで細川家というのは「あの」細川さんである。そう、熊本県知事から出発して、総理大臣になったあの細川護煕氏はこの細川さんの末裔。外様大名の中でも、秀吉時代から徳川家と近かった数少ない家である。もっともそれは、細川忠興が徳川家康と個人的にウマがあったことから生じたモノらしく、それがこの家の運命を大きく変え、島津薩摩藩の監視役としてとうとう熊本を領有するに至るのだ。
その後の細川家は、本書に書いてあるとおりである。細川家と徳川家の特別の関係から6歳の綱利に相続が認められたのである。このことを考えるとやはり人間信頼関係が一番だなと思う。制度が未確立だという大前提があるが、人間同士の絆というモノは時にして常識や習慣を超えるだけのファクターになりうると思うと何だか最後に心が温まる気がしてくるのは私だけだろうか。