あれぐろ・こん・ぶりお 2楽章

備忘録も兼ねて。日記なんて小学生の時宿題で課された1年間しか続かなかったのですが、負担にならないように書けば続くものですね。

「エンパイア・ステイツ」アメリカ〜ノーム・チョムスキー『覇権か、生存か』


 empire statesっていうのはニューヨーク州の通称らしいですね。もともとが大英帝国から来てるのかどーかはサッパリ分かりませんが…。アメリカ史の本をかつて読んだ時には書いてなかったような…。ちょっと記憶が曖昧です。
 それはともかく、empireそれ自体の意味はご存じの通り「帝国」ですよね。やや飛躍してしまいますが今日採り上げるチョムスキーの『覇権か生存か』を読むとアメリカは帝国なのだろうか?と考えるキッカケになるほどに、第二次大戦後アメリカの世界戦略が展開されていったか分かります。

覇権か、生存か―アメリカの世界戦略と人類の未来 (集英社新書)

覇権か、生存か―アメリカの世界戦略と人類の未来 (集英社新書)

 著者のノーム・チョムスキーはつい先日イギリスか何かの雑誌で、「現在、世界最高の知識人」に選ばれたヒトです。専門は言語学らしいんですが、恐るべき知識量。教養主義の権現というか、世界版「知の巨人」とでもいった感じです。確かに考えてみれば、加藤周一も著書を読むと経歴のところに医師だって書いてありますから、こういう世代には「ジェネラリスト」として共通するもの(教育?)があったのでしょう。


 そんなジェネラリスト、チョムスキーは著書の中でアメリカの世界戦略を大枠から論じていきます。しかしながら、抽象論に傾いているわけでは決して無く、きちんとした記録文書を駆使して説得的に論じているわけです。
 それはひとえに、アメリカという国の抜きんでた情報公開制度に依拠しているところもあるでしょう。アメリカは機密文書も数十年経つと公文書館で閲覧できるみたいですね。
 もちろん、その基準云々は管理人の不明ゆえに説明することができないんですが、「そうだったのか」みたいなことでも発表されてしまうみたいです。本当の国家機密はきっとダメなんでしょうが…。でも、CIAの暗殺リストが公開されたとか何とか聞きますよね。アレって本当なんでしょうか?問題ないのかな?


 経済のグローバル化アメリカ化が重なる部分が大きいので、結局のところアメリカが覇権(ヘゲモニー)を握っているコトになります。俗にグローバリゼーションはアメリカナイゼーションと揶揄させるゆえんです。
 もちろん、そこには絶大なる軍事力が背景にあることは間違いありません。世界的に見てこれほど各国に対して非対称な軍事力を持ったアメリカが自らの影響力を行使するために、世界中でどれだけ「あこぎ」なコトをやってきたかと言うことが非常に丹念に追われています。
 しかし、そういったことが表に出ないのはひとえに、既述したメディアがそれを報じないからに他なりません。

 世界の支配者はその意図を隠す必要がないだけでなく、むしろ「威信を維持する」ためにそれを誇示することを好むものだ。権力に服従するイデオロギーのシステムは、事実上どんな行動であっても、―国際テロ(キューバのように)しろ、あからさまな侵略(同時代の南ヴェトナムのように)や、大衆に根ざした唯一の政党を壊滅させるための大量虐殺への荷担(南ヴェトナムやインドネシアのように)にしろ―人々の記憶から消し去ることができるし、正当な自衛や善意の行動を誤った取り組みに変えることだってできるだろう。ノーム・チョムスキー『覇権か、生存か』p.110

 この、報じない理由はさすがのチョムスキーも分析してませんが…。一体、どこに報道を抑止させるような権力が発生しているのか?それとも、支配社会層のコミュニティでは暗黙の了解となっているのでしょうか?

 ともかくテロとの戦いを掲げるアメリカが、冷静的・客観的に考えてテロを増やしているという実際の行動(アフガニスタンイラクへの軍事展開)を考えると、実際はテロとの戦いがコトの本質ではなく、あくまでもアメリカによる世界政策の一環として適当な理由がつけられたのではないだろうか。といった疑念が湧いてきてしまいます。
 この辺は、論者によって明らかに意見が分かれるところですね。たとえば、アメリカの建国理念と新興国家としての特殊性に着目した国際政治学者の藤原帰一・東大教授とは明らかに異なっています。そのあたりは社会科学の面白さと言えばその通りなので敢えて立ち入りしませんが、石油利権だとかのあまりに露骨な理由から当て推量する論者に比べて、アメリカには一貫した世界戦略があるとするチョムスキーの指摘は今後のアメリカと国際関係を考える上で非常に有効なツールを提供していると言えるでしょう。


 普段情報を得るマスメディアからではもたらされることのない様々な事例を挙げているので、もしかするとアメリカが嫌いになってしまうかもしれませんが…。

デモクラシーの帝国―アメリカ・戦争・現代世界 (岩波新書)

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前述した理念系としての戦争を扱った藤原帰一の著作。その視点の中では一番読みやすいし、分かりやすいし、お得です(笑い)。