あれぐろ・こん・ぶりお 2楽章

備忘録も兼ねて。日記なんて小学生の時宿題で課された1年間しか続かなかったのですが、負担にならないように書けば続くものですね。

移民をめぐる現代社会


ジダンの頭突きとマケラッティが何を言ったか、なんて今ではすっかり下火になってしまったが、一応の決着が付いたようなので、エントリ。

http://sports.yahoo.co.jp/hl?c=sports&d=20060720&a=20060720-00000162-mai-spo

 その中の記事では

原因はマテラッツィジダンに対する侮辱に基づくものと認定し、一部で憶測が流れた人種差別に関する発言はなかったと判断した。


 と、FIFAでは以上のような結論を出した。
 いや、べつにFIFAを疑っているわけではないが、もう少し具体的に何を言ったのか分かるのではないかと思っただけに期待はずれという気もしてくる。


 当初から、マケラッティが「何を言ったか」というあたりが焦点だったと思う。マスメディアの情報の中で一番疑われていたのはやはり人種差別だろう。
 日本に住んでいる僕らはなかなか人種の問題や移民の問題ということが今ひとつ分かりにくい。それは

  1. 日本の国籍法が血統主義を採用している
  2. 日本政府が移民(難民含む)の受け入れに非常に消極的
  3. 地政学的に日本に来るのが難しい

というのもあって、ヨーロッパと比べると移民自体が少ないから、問題化されていないのだ。③は分かりやすいと思う。大陸続きのヨーロッパと違って、日本に来るには長距離に渡って船に乗ってこなくてはいけない。物理的に日本には行きにくいのである。


 そして社会科学をやらないヒトには分かり難いのが国籍のとらえ方。国籍極端に言えば「日本人」とか「アメリカ人」とかその人が帰属する国を識別するモノ。これには二通りあって、

  • 血統主義…A国人の両親から生まれれば、世界のどこで生まれてもA国人
  • 生地主義…B国で生まれれば、親の国籍を問わず、誰でもB国人


 となる。日本やドイツは血統主義アメリカやフランスは出生地主義の典型だ。だから僕らは「フランス人」というとみんな金髪の白人をイメージしてしまうが、実際は出生地主義を採用するため、移民の2世、3世の「フランス人」も多数存在している。ジダンはまさにこれに当てはまるのだろう。
 だから(1999年時点で)約430万人いる移民のうち、およそ3分の1(約160万人)がフランス人になるというのだ。


 だが、ここで非常にデリケートな問題がある。
 母国の政治体制から逃れて、あるいは経済的困窮から逃れてフランスに渡った移民は当然「移民」という身分ゆえにフランス人と同等の権利が与えられない。移民の第1世代はフランス語が話せない者が多い。従って、正規に雇用してもらえることは稀であり、不法就労にならざるを得ない。不法就労だから当然、賃金はかなり低くなる。そうすると生活は苦しく、そうした移民が多く住むところはスラム化する。
 移民の第1世代はいずれフランスで小銭を稼いだら母国に帰るつもりでいたが、結局、それでも母国に帰るよりフランスに残った方がまだ生活できるので、長く留まることになる。そうすると、フランスで子供を産むことになり、移民第2世代はフランス人となるのだ。
 彼ら、第2世代の移民(もちろんフランス国籍を持つフランス人)は親と違って、親の母国にシンパシーをあまり持たない。なぜなら自分が生まれ育ったのは「フランス」であり、自分は「フランス人」だと思っているからだ。
 にもかかわらず、アラブ系のフランス人は上記のようなコミュニティで育ったため、当然生活は厳しい。さらに言えば、アラブ系でも「フランス人」なのに彼らは就職の際、差別をされる。イスラム系の名前をしているだけで、就職前の書類審査で落とされることが大半なのである。
 同じ「フランス人」にもかかわらず、人種によって差別があるのだ。


 このあたりはアメリカの白人と黒人の差別と同様であることをイメージすれば多少は理解しやすいかもしれない。おなじアメリカ人でありながら未だに白人と黒人の間には差別が存在している。富裕層に締める白人の割合や、高学歴者・政府要職に占める白人の割合を見ても明らかであろう。


 マケラッティが例え差別的な発言をしたわけではないというFIFAの発表をに基づいて、マケラッティが差別的な発言をしてなかった、としよう。それでも、ジダン相手に侮辱的な発言をした=人種差別的な発言をしたのではないか?という憶測がすぐに浮上してくる「雰囲気」がヨーロッパにある。ということを僕らは認識しなければいけないだろう。
 移民の善し悪しや、それへの対応を論じることは今回はないけれど、移民の問題に直面しない日本社会というのが先進国の中では非常に「稀である」という、ことだけはこのことを通じて理解しておく必要があるだろう。

移民と現代フランス―フランスは「住めば都」か (集英社新書)

移民と現代フランス―フランスは「住めば都」か (集英社新書)

フランスの移民の問題を採り上げた本は非常に少ない。上に書いたとおり、読み手である日本人がこの問題に感心がないことが一番大きいのに由来するのだろう。その中で、さまざまな移民の生活をルポした本書は手軽に購入でき、かつ、移民の生活について理解が得られる良書だ。
現代ドイツ―統一後の知的軌跡 (岩波新書)

現代ドイツ―統一後の知的軌跡 (岩波新書)

移民をメイントピックで扱ってはいないが、隣国ドイツでも同様の問題が生じている。アメリカ型ではない途を模索しようとするヨーロッパ諸国の取り組みを知ることは、今後の日本社会を考える上でも有益なはずだろう。