東京都交響楽団 第631回定期演奏会 Aシリーズ 9/14(木)
2006年9月14日(木)19:00(開場18:20)東京文化会館
プロコフィエフ:組曲「キージェ中尉」 作品60
プロコフィエフ:オラトリオ「イワン雷帝」 作品116 スタセヴィチ編
(ロシア語歌唱/日本語での語り入り/日本語字幕付)
指揮:ジェイムズ・デプリースト
語り:平野忠彦
アルト:クリスティーヌ・メドウズ
合唱:二期会合唱団
2005-2006シーズン・プログラムとは打って変わり、2006-2007シーズン・プログラムは常任指揮者、ジェイムズ・デプリーストの以降が強く反映されていると思わせられるプログラミングである。恐らく、プロコフィエフの「イワン雷帝」を演奏したいと提案したのはデプリーストであろう。非常に珍しい、初めて聴く音楽だ。なので始まる前から楽しみだった。
両方の作品共に、大編成のオケを堪能。4管編成(変則的だけど。トランペットは5)のオケと混声合唱団が東京文化会館の舞台を埋めるその偉容は圧巻。
まずは「キージェ中尉」から。
舞台裏から聞こえてくるコルネット、冒頭ちょっとつまずいたけれど、標題音楽っぽく描写が上手く出せている。架空の人物キージェが誕生するその様子が非常にクリアに表現できていた。第3曲のキージェの結婚ではテナー・サクソフォーンが民謡風の旋律を情感たっぷりに吹いている。
次のプログラム、「イワン雷帝」。
キージェ中尉もイワン雷帝もどちらも寂しげな旋律(叙情的なともいうべき?)があるのだけれど、ホントに寂しげというよりかは浪花節的な寂しさが感じられる(笑い)。チャイコフスキーのようなコテコテした寂しさ。仰々しい寂しさというのかな、多分、プロコフィエフの作風とロシアの民謡が大きく関係しているのだとは思うのだけど…。
イワン雷帝はオラトリオ形式。前、N響がデュトワの下でメンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」を江守徹の語り入りでやっていたけれど、それと似ている。
物語のナレーション&イワンのセリフを担当するのがバリトンの平野忠彦。この平野の語りが実に素晴らしい。重量感のあるバリトンがイワンの威厳ある様にはハマっているし、舞台の経験もあるがゆえに、ナレーションとしての朗読も実に素晴らしい。まさに、今回の最大の功労者は平野その人であったとも言えるだろう。
また、二期会合唱団の力強い歌声も評価するべきだ。オラトリオといえば合唱だが、今回は合唱のテクニックそのものよりもその圧倒される声量に感動。人の声の素晴らしさを再確認する演奏会である。
また、都響も相変わらず弦の冴えをみせ、弦だけのアンサンブルの箇所ではその艶やかな音色に聞き惚れてしまった。また、今回は金管楽器が大いに健闘していたことも特筆すべき。
総じて、大変感動的な演奏会であった。客の入りも良かったし、日本には様々なオーケストラがあるが、今回のような都響の企画はまさに「東京都」交響楽団という公立オーケストラの面目躍如というか真骨頂であろう。本来であればN響もこうした取り組みをして良いはずだが、デュトワ退任後はまったく気の抜けたコーラのような安全パイのプログラムばかり組み、ある意味存在価値がない。
今年の12月にもデプリーストは都響でヘンデルの「メサイア」(東京文化会館)とショスタコーヴィチの交響曲第8番(サントリーホール)を振る。これは期待が高まるというものだ。