読書週間第2弾。
このたび創刊した朝日新書から。ちなみに朝日は文庫と選書は出していたけれど新書はようやく、って感じです。
っていうか朝日新聞の入試掲載率No.1なんだからもっとこっちに手を出してもよかったと思うんだけどね。朝日と聞くと個人的に叩きたいヒトはいるんだろうけど、経営陣の「ていたらく」は酷いモノの記事は叩くほどのことはない。気になると言えば、ちょっとインテリぶった感じがするくらい。
だから、夕刊なんかの文化欄はさすがだなぁ…と思ったりする。こないだ文化勲章をもらった吉田秀和が長い間連載してたしね。
- 作者: 姜尚中
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2006/10
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そんな朝日新書の記念すべきナンバー001は姜尚中の『愛国の作法』である。恐らく、安倍晋三の『美しい国へ』に対抗して朝日新書が出版したのだろうと思うが、果たしてどーだろうか…。
姜尚中は「はじめに」で次のように述べてる。
大切なことは、国を愛することや愛国心を、夜郎自大的な一部の「右翼」的な人々の専売特許のままにしておかないことです。もっとしなやかに、そしてしたたかに国を愛することや愛国心について語り、議論することが必要なのです。
このように「はじめに」で述べ、さらにタイトルに「愛国の作法」としたということは、「愛国」(または愛国心)というものを本来でいえば保守的な人たちの「専売特許」であったものをそうではない人たちの側のものにもしようという意図があったのだと思われる。
ただし、そう考えると本書の中で姜尚中の意図は必ずも達せられているとは言いにくい。
たとえば、「愛国」の背景としてあげるグローバル化を国家の「求心力」と「遠心力」という言葉で表現し、グローバル化での市場の「改革」を国家の強力な改革によるモノ、だと捉えている。これはつまり政治的、公共的なモノが経済や市場にと侵食されていくという(ハンナ・アーレントにお馴染みの)指摘がなされている。ただし、アーレントと異なっているのはグローバル化が公的介入という国家の「過剰」と表裏一体であることを強調している。
しかしながら、資本そのものが持つ自律的運動性にはあまり着目されず、そのウエイトは国家による意思の介在にフォーカスが当てられているのだ。もっとも資本そのもの、あるいは市場の自律的運動性を過度に強調しすぎる感もある経済学側へのアンチテーゼという側面もあるのかもしれないが…。
それでも姜尚中の方向性としてはテッサ・モーリス・スズキとの『デモクラシーの冒険』や『姜尚中の政治学入門』あるいは『ナショナリズム』などの著作の延長線上にこの本も当然ながらあると言ってよい。基本的に清水幾太郎、ヴェーバー、アーレント、丸山眞男などを引用しながら国家や日本を論じつつ、目指すべきところにマルチカルチャリズム(=多文化主義。注意すべきは文化相対主義ではない。)な政治のあり方を志向するのだ。
ここが難しいところだと思う。つまりマルチカルチャリズム的な政治志向といった、理性的かつ理想的な方向性が多分に不確実に感じられるからこそ『美しい国へ』になびいてしまう人々がいるのだろう。理性的なモノではなく情緒的なモノへとシンパシーを感じる層への挑戦と言うことは丸山眞男にとってもテーマであったに違いない。しかし、結局その挑戦は失敗した。
結論的にはそうした情緒的なモノにシンパシーを感じるヒトをどうやって回収し、理想的な方向へ持って行くか、という問題意識に姜尚中なりの(いわば)戦術論がうまく答え切れていないようだ。
その限界を感じるからこそ、太田光・中沢新一の『憲法九条を世界遺産に』が売れているのかもしれない、という逆説的な答えにもなると思う。
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