あれぐろ・こん・ぶりお 2楽章

備忘録も兼ねて。日記なんて小学生の時宿題で課された1年間しか続かなかったのですが、負担にならないように書けば続くものですね。

今さらながら、フランス大統領選挙雑感


■フランスでサルコジ氏大統領当選への抗議行動続く【5月8日10時19分配信 ロイター】

 [パリ 7日 ロイター] 大統領選の決選投票でニコラ・サルコジ前内相の当選が決まったフランスで、同氏当選への抗議行動が広がった。目撃情報によると、パリでは7日夜、300─400人の若者が店の窓を割ったり、スクーターに放火するなどの行為に及び、警官隊と衝突した。
 パリのバスチーユ広場に集まった若者は、サルコジ氏への抗議のスローガンを叫ぶなどし、数百人の警官隊が若者らを解散させようとした。スクーターが放火されたほか、電話ボックスが破壊され、自動車も被害を受けた。35人前後が逮捕されたという。
 さらに地方都市でも、ナントで約400人、リヨンで約500人、カーンで約800人がサルコジ氏に対する抗議行動に参加。フランスのラジオ局の報道によると、これ以外の都市でも抗議行動が行われたという。


 フランス大統領選挙についてエントリ書きます。って予告していたので今さらながらようやくエントリしてみる。


 フランスの政治について若干説明。

 フランスは半大統領制であり、大統領と首相がいる。
大統領は首相の任命権があり、主に外交と国防を担当する。任期は5年。
首相は大統領に任命されるが、(ここがポイント→)議会に対して責任を持つので、下院で不信任案が出た場合は辞任しなくてはいけない。主に内政を担当。

 こういう関係なので、大統領の出身政党と、議会の多数党が一致している場合は大統領の強力なリーダーシップの下で政策は進められていく。それとは反対に大統領と議会の多数党が一致していない場合、「コアビタシオン」(≒保革共存政権)とよばれる。
 フランスの政治でコアビタシオンの代表例は、

 フランスは小政党がかなりあるけれど、かつては「2大ブロック4大政党」と呼ばれ、主に

 以上の4つの政党が伝統的に力を持つとされてきた。
 ただ、最近は共産党の退潮が著しく、反対に極右の国民戦線が力を持ち2002年の大統領選挙では決選投票まで党首・ジャン=マリー・ルペンはコマを進めたりした。さらに環境保護を訴える、緑の党なんかも出てきたりしている。


 大統領選挙の結果は報道の通り、右派のニコラ・サルコジが当選した。
 反対に言えば左派・社会党のセゴレーヌ・ロワイヤルはフランス初の女性大統領になれなかった、というわけだ。
 多くの識者が指摘するように、フランス社会を見舞っている「停滞感」の払拭にアメリカ的な競争原理を掲げるサルコジの主張に支持が集まった、というのが妥当な見方だろう。

 とはいえ、ここで気をつけなくてはいけないのが「フランスは基本的に高福祉の国家」ということだ。
 例えば、出産の際の入院費や医療費は無料だし、子どもが20歳に達するまで約25000円(1ヶ月)の基礎手当が支給される。更に、保育士費用の補助が(所得に応じて)存在し、それは約1~5万円程度である。
 それだけではない。学校に通う子どもには毎年数万円の学校新学期手当が支給され、その他にも住宅手当や有給休暇とは別に「父親休業」が10日くらい保障される。

 これは育児制度の一例であり、こうした「高福祉」がほかの領域にも拡がっているのである。(例えば、週35時間労働制など)


 こうした社会の合意がそもそもあるフランスでアメリカ流の自由競争原理を導入したとしても、それが直ちにフランスの「アメリカ化」になるか、といったらそれはやはり違うだろう。
 それはやはりフランス共和国が掲げるところの「普遍主義」とも通じる。

 1789年に起こった「フランス革命」での理念は「自由・平等・博愛」である。
 ただ、アメリカ的な自由・民主主義の概念とは異なり、フランスでは平等・民主主義の色彩が強い。もうちょっと詳しく言えば、「各人の自由を保障するために各人に平等が保障されていなければならない」という発想である。
 このフランス共和国の理念と照らし合わせて、企業活動や労働条件の緩和をサルコジは行ってくものと考えられる。

 新聞の論調では「サルコジ圧勝」と言っていたが、実際は得票率にして53対46程度の差でしかない。フランスでは大きな差、と言えなくもないが、日本も含めた他の民主国家からすれば、この差は小さいと言ってよいだろう。
 それと同時に、反サルコジ派の若者の暴動があったが、今後、サルコジはそのような若者たちをも受け容れられるような政策を進めていく必要が出てくる。

 次の総選挙はどうなりますやら…。


 それとは別に管理人の雑感。
 今回の結果を自分の研究に引きつけて考えると、左派が未だに明確な(対抗的)経済理論を持ち得ないことにロワイヤルの敗因があるのではないだろうか。
 ロワイヤルの掲げた政策は、要するに「限られた数しかないパイをいかに配分するか」という政策であった。しかし、その主張はサルコジの「パイ自体をいかに増やすか」という主張の前に破れたわけだ。
 管理人自身は「全てのヒトにパイを分配する」というロワイヤルのマニフェストにはアメリカ型社会とは違った「もうひとつの可能性」があると考える。それゆえに、今回のフランス大統領選挙は「アメリカ型市場万能主義だけが唯一の正解である」という風潮(言い換えれば、思いこみ)を打ち破ってくれるのではないか、と期待していた面もある。
 だが、管理人の個人的な期待は関係なく、結果はアメリカ型市場原理を取り入れると言ったサルコジが当選した。

 そうした結果を受けて、やはり問題となるのが左派の側が、アメリカ的市場主義のオルタナティブを政策上提示した場合でも「社会(=経済)は停滞することは決してない」ということを経済学上の裏付けが必要ではないのか?
 どうも、政治学社会学の側からアメリカ的市場主義のオルタナティブを主張したとしても、「経済学的にそれは妥当じゃない」なんて言う風潮が強いように感じるんだよな。なんでもかんでも経済原理最優先で良いのか?と思うんだけどね。
 つまるところ、「近経(→新古典派経済学)をいかに乗り越えるか」にかかっているように思える。

日本とフランス 二つの民主主義 (光文社新書)

日本とフランス 二つの民主主義 (光文社新書)

政治思想プロパーから見ると、その分類は怪しいところがあるんだけれど「社会学の観点から見る」と自覚しながら読むのであれば、フランス社会についての理解が深まる本。前にも同じようなコメントしたんだけれど、選択肢がいくつもあるのにアメリカ的社会しか思い浮かべられない日本の状況一般を考えると、有益。
フランスの社交と法

フランスの社交と法

もうちょっと包括的にフランス社会について述べた本。しかも学術書レベルまで難しくはない。著者は東大で民法を講ずる教授。大学教授が書いた、ちょっと堅めのエッセイっていうところだろうか。学者の性なのかどうかしらないけれど、欄外に多くの参考文献が載っているので、フランス社会の入門には良いかもしれない。結構新しい本だしね。