スーザン・ストレンジ『国家の退場』を読む
- 作者: Susan Strange
- 出版社/メーカー: Cambridge University Press
- 発売日: 1996/11/14
- メディア: ペーパーバック
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- 作者: スーザン・ストレンジ,櫻井公人
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1998/11/20
- メディア: 単行本
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おざなりになっていたのでちゃんと紹介。
前回紹介したけれど、筆者スーザン・ストレンジ(1923-98)は新聞・雑誌記者を経てLSE(ロンドン・スクールオブ・エコノミクス&ポリティカルサイエンス)教授、ウォリック大学教授などを務めた。専攻は国際政治経済学。
本書の原著での公刊は1996年である。しかし、その当時にあってストレンジの認識は既に10年先の社会を見通しているかのようである。いまでこそ、本書で述べられているいくつかの点は「当然だ」と見なされているが、それを当時において指摘する先見の明は非常に卓越していると言わざるを得ない。
「国家の退場」という刺激的な本書のタイトルとは裏腹に、そこで指摘されているのは「国家の絶対性の揺らぎ」であろう。つまり、近代国民国家の絶対性が、近年揺らいできている。その原因には市場の力や超国家機構の存在がある、ということである。
超国家企業(多国籍企業とでも置き換えても良いと思う)が、世界規模で経済活動をおこなうようになると、各国政府はいわば「それら企業の顔色を窺いながら」国内政策を実行するようになる、ということだ。
国内において福祉充実のために税負担率を上げようとすると、その企業は経済活動を海外へと移してしまうために、従来の絶対的権力であった国家による徴税権の自由な行使が難しくなると言うものだ。
そして、IMFやEUの存在は通貨政策や通産政策において、各国政府の独走を許さない。いわば、「一定の合意」のもとでしか政策を実行できない状態にするのである。
とりわけ金融・証券の越境性はさまざまな論者によってつとに指摘されているところであるが、ストレンジの指摘が秀逸なのは監査法人や保険会社が今日では大きなパワーを持つアクター(actor:政治世界における行為者)として認識されるところである。
たしかに保険会社による船舶保険の適用不適用が戦争に与える影響など、一見、無関係に思える両者の関係が実は経済活動において非常に密接に結びつき、戦争という国家の絶対的な権力行使にすら影響力を及ぼしているというのは指摘されなければなかなか分からないところでもある。
もっとも、そのような絶対的な権力を持つ主権国家の揺らぎは、先進国に限った話のような印象も受ける。アジアやアフリカの諸国では国家の絶対的な力は強いし、たとえばシンガポールのように経済レベルは先進国レベルに達しているものの、国内政治においては未だに権威主義体制の国もある。
社会、文化という視点への関心が薄く、その結果、どの国の政府もアメリカやイギリスのような状況になりつつあるかのような印象を与えるのである。しかし、果たしてそれは本当に全てに当てはまるような現象なのか。
とはいえ、ストレンジにしてみれば、国際政治学の主眼が相変わらず国家中心主義であり、その見方に立っている以上は有益な現状分析は出来ない、という立場であるためにこのような見解を取るのは致し方ないところがある。
将来を先取りし、それまでの国際政治学のアプローチへの批判と代わりに示しうる見解を備えているという点で、本書は優れているものと思われるのである。
オススメ度→★★★★☆