- 作者: 北岡伸一
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2007/05/01
- メディア: 新書
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あらかじめ断っておくと、管理人は著者とは考え方が大きく違うので、ところどころその主張には納得しがたいところがある。とりわけ第9章『中国の日本批判に答える』は靖国問題や歴史問題に触れた箇所はその典型。
反対に、北岡伸一が政府から国連次席大使に打診されたというのは、北岡の姿勢が政府方針と近いことの証明でもある。だから、その点で、政府方針に対して評価が甘くなる、擁護的になる、ということは言えるだろう。
しかし、その点を差し引いてもこの著書は今まで何をしているのか良く分からない国連についての概要をハンディなかたちで伺い知ることが出来る良書である。
よく、国連に対しては国連に対する過度な期待と、過小な評価との二分が存在するのであるが、著者はそのどちらに対しても客観的に、国連に出来ることとその限界を客観的に記述していると言えるだろう。
その上で、次席大使としての一日や、PKOの実際、あるいは国連を舞台にする各国との折衝、国連改革など、その時々のテーマについて、日々書き綴ったモノを纏めたアンソロジー的な仕上がりとなっている。
詳細は本書を読んでもらうとして、管理人が個人的に関心を持った箇所を少し紹介する。
国連代表部の仕事として、安保理視察団というものがある。その時の見聞記(第7章)から若干の引用。
米州諸国、いわゆるカリブ海に浮かぶハイチに派遣されているPKOの視察にさいし、
ハイチの東には、同じ島に、ドミニカ共和国がある。ここでも1960年代までにトルヒーチョ大統領による独裁が三十年続いた。しかし現在は安定しており、その結果、ハイチとは大きな違いが生じている。一人あたりのGDPはハイチ400ドル、ドミニカ共和国2070ドル。平均余命は、男女合わせてハイチで五十二歳、ドミニカ共和国で六十七歳。十五歳の差である。国土も、空から見ると、緑豊かなドミニカ共和国に比べ、ハイチは国土の98%は禿山である。
地理的条件がほぼ同じなのに、こういう差ができたのは、政治が悪いからである。世の中には、政治の役割を軽視する人があるが、良い政治と悪い政治がもたらす差は、これ程大きいのである。(本書158ページ)
国連において安全保障理事会の存在が非常に大きいのと同時に、次席大使という職務上、安保理とのコミットが大きなウエイトを占めるのは当然なため、たとえば国連難民高等弁務官事務所やUNICEFやWHOという国連各組織の活動については良く分からない。
そこは本書のタイトルが示すとおり「国連の政治力学」なのである。
しかし、従来、情報が少なかったのはそういうアリーナとしての国会での様子であり、そこに各国の利害を反映させながらどのようにして国際社会を方向付けていくのかといういわば「外交交渉術」のようなものが、多少とも知ることが出来たのは大きい。
日本は国連で何をしているのか良く分からない、というマスメディアの論調に対して、本書を読めば、日本は相応の貢献をしていることが窺い知れる。そうした貢献に裏打ちされた各国との信頼関係を活かして、日本外交がとりうる方針を考えることもまた有効だろう。
Amazonのレビューにもあったが、明石康『国際連合』と併読するとイイと思う。
繰り返しになるが、いろんな雑誌に書いた記事を纏めたアンソロジー的なところで、記載に重複があって、一冊の本としてはスッキリとはしていない。そこが客観的に見た場合のマイナス点。
オススメ度→★★★★☆