あれぐろ・こん・ぶりお 2楽章

備忘録も兼ねて。日記なんて小学生の時宿題で課された1年間しか続かなかったのですが、負担にならないように書けば続くものですね。

管賀 江留郎『戦前の少年犯罪』(築地書館)

去年読んでいたモノの、忙しさにかまけてupしなかった本を紹介。

戦前の少年犯罪

戦前の少年犯罪

内容紹介
昭和2年、小学校で9歳の女の子が同級生殺害
昭和14年、14歳が幼女2人を殺してから死体レイプ
昭和17年、18歳が9人連続殺人
親殺し、祖父母殺しも続発!
現代より遥かに凶悪で不可解な心の闇を抱える、恐るべき子どもたちの犯罪目録!

なぜ、あの時代に教育勅語と修身が必要だったのか?
発掘された膨大な実証データによって戦前の道徳崩壊の凄まじさがいま明らかにされる!
学者もジャーナリストも政治家も、真実を知らずに妄想の教育論、でたらめな日本論を語っていた!


目次
1、 戦前は小学生が人を殺す時代
2、 戦前は脳の壊れた異常犯罪の時代
3、 戦前は親殺しの時代
4、 戦前は老人殺しの時代
5、 戦前は主殺しの時代
6、 戦前はいじめの時代
7、 戦前は桃色交遊の時代
8、 戦前は幼女レイプ殺人事件の時代
9、 戦前は体罰禁止の時代
10、戦前は教師を殴る時代
11、戦前はニートの時代
12、戦前は女学生最強の時代
13、戦前はキレやすい少年の時代
14、戦前は心中ブームの時代
15、戦前は教師が犯罪を重ねる時代
16、戦前は旧制高校生という史上最低の若者たちの時代

「昔の人間は簡単に人を殺すようなことはしなかった」
「昔は目上の人を敬う風潮があった」

 などの自分が少年時代に見ただけの「個人的な経験」を得々と語る御仁が多いなか、著者は戦前の新聞や各地方で編纂された地方史を丹念に調べることで、戦前が決して現在よりも犯罪の少ない社会ではなかったことを文字通り「実証している」労作である。
 そうした個々の少年犯罪の記事を紹介し、解説していくと言うだけのスタイルなのだが、いままで不思議とこの手の研究は為されていなかっただけに、こうして読むと戦前社会が現在に比べて決して道徳的に優れた社会ではなかったことが分かる。

 本書でも指摘されているが戦前は銃は警察に届け出れば所有を許可されていたし、鉛筆を削るのにナイフを学校に持ち込んでいたのだから、いざカッとなって「キレる」と、手にした銃やナイフで相手を殺すまでやってしまうわけだ。

 個々の事件は本書を読んで貰うとして、全編にわたってなかなか凄惨な殺人が多いのだけれど、著者の文体が軽妙なので読んでいて鬱々としない。逆に本書に「真剣さ」を求める人にはなかなか不謹慎にうつるだろう。そこは好みの分かれるところである。

 こうして戦前の記事を丹念に追っていくと、いかに世間の知識人が適当なことを言っているかが明らかになるだろう。そして、これは全編にわたって多く言われることなのだが、犯罪を犯す少年(少女)は戦後すぐのように貧しさのあまり犯行に及んだのではなく、食べるものに困らない、恵まれた家庭環境出身であることが多いことが分かる。(もっとも、このことと、犯罪の因果関係はまた別の研究が必要だろう)

 12章の「戦前は心中ブームの時代」などに端的にかかれているように、何不自由なく育った若者が「厭世的に」集団自殺するなどまさに今で言うところのニート問題の先駆となる事例である。
 それは11章の「戦前はニートの時代」でもっとも力説されるように思われる。ここでは2・26事件がクーデター首謀者の磯部浅一の「ニート頂上対決」という(挑発的な)タイトルは、政党政治の腐敗や財界との癒着、さらには統制派と皇道派(その遠因でもある士官学校の制度など)、といった従来の昭和史研究の観点からではない、独特な視点から2・26事件を位置づけている。(それが妥当かどうかは別として)


 いずれにしても、いままでいわば「エアポケット」の部分なだけに本書の存在は貴重である。

オススメ度→★★★★☆