あれぐろ・こん・ぶりお 2楽章

備忘録も兼ねて。日記なんて小学生の時宿題で課された1年間しか続かなかったのですが、負担にならないように書けば続くものですね。

内側から覗く現代中国@「中国問題」の内幕:清水美和 著(ちくま新書)

「中国問題」の内幕 (ちくま新書)

「中国問題」の内幕 (ちくま新書)

日中貿易はすでに日米貿易の規模を超えた。その一方で、中国の国防予算は毎年二ケタの上昇を続け、しばしば「反日」騒動が起きるなど、「政冷経熱」の日中関係は依然として予断を許さない微妙な段階にある。さらに近年の資料争奪戦や激しい環境破壊、台湾との高まる緊張関係は、世界秩序に大きな影響を及ぼしている。しかも、国内の格差の拡大は中国社会を極めて不安定なものにしている。「台湾問題」「共青団上海閥」「人民解放軍」「格差問題」「中央宣伝部とメディア」「一党独裁下の資本主義」などのテーマを通じ、矛盾を抱えながら膨脹する巨大国家の行方を解剖する。


この本の目次
プロローグ―「不思議の国」と付き合う法
第1章 温家宝首相の来日を追う
第2章 歴史に呪縛された日中関係
第3章 試練に立つ共産党支配
第4章 台頭する共青団の実力
第5章 中国軍の思想と行動
第6章 社会を破壊する格差
第7章 党中央宣伝部とメディアの自由
第8章 未完の「胡錦涛革命」

 チベット問題でも揺れる中国政治であるが、その関連で読んだ、ということではなくて、前回の「古代中国の文明観」(http://d.hatena.ne.jp/takashi1982/20080304)から派生して読んだ本である。
 清水美和については『中国が「反日」を捨てる日』という新書もあって、これもおもしろいんだけれど、中国特派員として活躍した新聞記者である。だから学問的な研究から書かれた本ではない。しかし、日中間あるいは中国国内の政治問題をいわば「中国の内側」から読み解いていこうとするまとまった分量の本は皆無と言っていいので非常に貴重だ。

 時事問題を内側から覗く、というのはどういうことかといえば、それは中国共産党内での権力闘争から政治を読み解く、丸山眞男の表現を借りると「政界部」の話である。先進諸国が民主主義体制をとり、正当に選挙された議員によって権力獲得闘争が行われるのとは対照的に、中国国内の「唯一合法の」政党である中国共産党は民主主義体制とは異なり、その権力獲得闘争は権謀術数的な牽制や、ある時には対外関係でさえも利用しようとする徹底ぶりである。

 本書で挙げていられているように数年前に上海で起きた反日デモや北京にある日本領事館への破壊活動は一面では歴史認識や経済的格差といった問題が横たわるのは事実なのだが、対日強硬派江沢民グループ(上海グループ)が胡錦涛グループ(共産党青年団グループ)を牽制するために、「わざと」デモ行為を抑制させなかった、という裏事情もあるらしい。
 この手の話を読んでいると、なんだか中国歴代王朝で繰り広げられた権力闘争が今なお人物を変えて続いているような感じがしてしまう。そんなところで中国四千年の歴史を感じなくてもいいのかもしれないが、この広大な国土と人口を預かる中国の最高権力者にはそうした要因が必要不可欠だと思うと、なんだかため息をつきそうになる。

 そしてそれぞれ一章ずつ割いている中国軍と格差については現代中国政治を考える上での大きな資料を提供することになるだろう。「銃口から生まれた」中国にとって人民解放軍の存在は絶大であり(その部分は北朝鮮先軍政治に似ている)、最高権力者である胡錦涛であってもその掌握が難しいというのは周辺諸国からすれば不安この上ない。また、中国社会の急成長が中国の独特の戸籍制度に基づいた構造的な要因があって、そうした要因がまた格差の拡大を生み出しているというのもまた重要な視点である。

 むろん、どこの国でも様々な国内問題を抱えているが、中国問題を考える際には単に国内問題と国際問題という視点だけでは不十分で、なにより本書のタイトルにあるように「内幕」からの視点も必要になるということである。
 繰り返しになるが、現代中国を考える上でハンディな書籍は少ない状況という点から考えると、本書の存在は貴重である。ただし、中華人民共和国の歴史がある程度押さえられていないと、読んでいて辛い部分があるかもしれない。

オススメ度→★★★★☆

中華人民共和国史 (岩波新書)

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中国現代史が怪しいヒトはこのあたりがハンディでいいかも。

中華人民共和国 (ちくま新書)

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こっちは気になるものの読んでない。そのうち読みたいなぁとは思うのですが…。