あれぐろ・こん・ぶりお 2楽章

備忘録も兼ねて。日記なんて小学生の時宿題で課された1年間しか続かなかったのですが、負担にならないように書けば続くものですね。

クルーグマン教授の経済入門

クルーグマン教授の経済入門 (ちくま学芸文庫)

クルーグマン教授の経済入門 (ちくま学芸文庫)

 ノーベル経済学賞(もっとも、経済学賞はノーベル財団に働きかけて行っているスウェーデン銀行賞なんだけど)受賞者のポール・クルーグマンによる一般読者向けの経済本である。「経済入門」であって、「経済学入門」ではない。大まかに言ってしまえば、経済学の思考で、当時のアメリカ経済を分析している時事ネタのようなものである。
 ただ、時事ネタだからといって侮ることなかれ、なのだ。基本的に経済はどこの国でも似たり寄ったりな現象を起こしている。そのさいに「経済学ではこう考える」的な視座を提供していることに本書を読む最大の魅力があるだろう。

 本書を読んで新たな発見だったのは経済にとって(経済学にとって、ではない)重要なのは「生産性、所得分配、失業の3つだけ」なのだそうな。実は貿易赤字やインフレはこれら三つと比べると、大した問題ではない、ということになる。そして、翻訳者の山形浩生も指摘するようにクルーグマンは「生産性がなぜ上がるかよく分からない」とハッキリ言いきってしまう。
 言われてみれば確かに、だ。教育に投資をしたところで生産性が向上するかどうかは疑わしい。もっとも、政治学プロパーな管理人からすれば、豊かな社会や、平和な時代に知を愛するという、文字通り「フィロソフィア」な可能な社会というのは、経済的な観点からではなくて、別の側面から擁護されて然るべきだと思うので、いささかの価値を減じるモノではない。
 また、クルーグマンをはじめとする研究者のそうした努力(?)と実際に日本が経験したバブル後の平成不況の状況を経て、不況期における金融政策の重要性が徐々に認知されてきているのではないか。(フリードマン以降、そーいうこというヒトはいるけどさ。だからより厳密には中央銀行である日銀の役割はことさら重要ですよ、ということになるのだろう)
 失業とインフレ率の関係とかも、かなり面白い。けど、そうなると日本においてはどうなるんだろうか、というのは経済プロパーではない管理人の疑問。もっとも、そーいうことを言うような人間は他人に頼らず、棚にしまってあるマンキューの経済学の教科書でもじっくり読め、ということになりそうだが(苦笑)。

 高校で政治経済をしっかりとやったヒトなら、あるいは大学の教養学部で経済学をやっていたらここに書いてあることは「ナルホドナー」と目から鱗が落ちる様な感じで読めると思う。そうでないヒトが読むと、「え、そーなの?よくわからない」というようになりそうな印象を受けた。
 もっとも、そこまでいくと、そんなヤツらに経済学はいらんだろ?的な話になりそうだけど…。ただ、実際、政治的な議論と経済的な議論とをゴッチャにして(多分、話をしている本人が気づいてない)政策を語る政治家やテレビに映る業界の人々がある意味、経済を分かってない大衆を「煽動」しているような状況もあると思う(別に大衆蔑視じゃなく、大衆社会の不可避的側面として)。
 そんなわけで、僕らのような「亜インテリ」(果たしてそこにすら入らないんじゃないか、なんて思うが…)は、ある程度の経済的な教養も身につけてないといかんのではないかなーと思わせる読後感である。

 経済嫌いだ!!とかいってる人文・社会科学系学生は読むといいんじゃないのか?学生時代くらいじゃないとまとまって本を読まなくなってくるし(←学生じゃなくなった人間の自戒)。