田英夫を巡る雑感。特攻と9条
先日、ネットのニューストピックで田英夫の他界を知る。
ほどよくまとまっている、日刊スポーツの記事を抜粋してみる。
特攻隊員として終戦を迎え、戦後はテレビキャスターの草分け、そして政界入りした田英夫(でん・ひでお)元社民党参院議員が13日に、東京都港区の病院で呼吸不全で死去していたことが17日、わかった。86歳だった。共同通信社会部長、東京放送(TBS)を経て71年の参院選で初当選し、計6回当選した。近年は闘病生活を続け、07年に政界を引退していた。最後まで平和を訴え続け、政権交代を見届けて旅立った。
田氏は1945年8月の終戦を、旧日本海軍の特攻艇「震洋」の搭乗員として迎えた。同年8月4日にボートの船首に爆薬も積み込み、「命令があればいつでも死ねる軍国少年だった」(田氏)という。自身を軍国少年にした戦前の報道が「ウソを書いていた」との思いから、「真実を報道するジャーナリズム」を目指して、47年に共同通信の記者となった。共同通信時代には政治部のほか、第1次南極観測隊報道担当隊員として南極も取材。社会部長も務めた。
その後のハナシをちょこっと付け加えると、TBSのキャスター第1号となり、ベトナム戦争中のハノイを取材し、ベトナムの現状を報じた。時の佐藤政権が対米配慮からTBSに圧力をかけたためキャスターを降板。70年に退社、翌年、立候補、以後、議員として活動した。
いわゆる「戦中派」世代の平和観を代表する議員だったように思う。
後藤田正晴やら梶山静六、中曽根康弘、宮沢喜一、野中広務、そして田英夫や土井たか子といった政治家たちは、それぞれ政治思想も、目指すべき社会像も異なるけれど、自身の戦争体験というモノを政治活動の原点においていたように思う。
それが、中曽根のように改憲へと向かったとしても、それは自身の従軍経験から導き出された結論としての改憲であり、近年の威勢のいい、上っ面だけの改憲論とはまるで次元が異なるといえるだろう。
そのなかで田英夫は政権与党の権力の中に入るのではなく、ジャーナリストとして、外から常に、9条と平和の問題を追及し続けたのだといえる。
東大入学後まもなく、20歳で徴兵検査を受け、その後、海軍の震洋特攻隊へと命じられら。終戦直前まで、ベニヤ板を合わせて作った特攻船でもって、アメリカ軍の上陸に備えて、まさに「決死の覚悟」でいた軍国青年は、先に特攻に志願し、戦場の犠牲となった仲間たちに対して「忸怩たる思い」や「うしろめたさ」を感じずにはいられなかったという。
田は『特攻と憲法9条』のなかで、次のように語る。
そのころ世間では、「靖国で会いましょう」とか「死んだら靖国神社にまつられる」「神様になる」「お国のために死ぬのはすばらしいことだ」ということがマスコミでも言われていたわけです。さて、特攻隊で一緒に暮らすようになってみると、まさしく一緒に死ぬんですけれど、「靖国神社で会うんだなあ」とかいった、そんな甘っちょろいお定まりのような言葉は、まったく口にしませんでした。ただただ死を心の中に押さえ込んで生活をしていました。一人一人の死を覚悟した特攻隊員というのは、自分の胸の中に死の覚悟をしまい込んでいますから、口に出して「一緒に死のうな」とか、そんなこと言うことはしませんでした。
そうした軍国青年は、しかし、1945年8月15日の放送で、大きく人生を変えることになる(平たく言えば死から解放される)。もちろん、田自身の回顧によれば、そうした軍国青年的な軍人気質は憲法草案を見るまで
つまり1946年になるまで抜けきらなかったそうだ。
そうした軍国青年の大きな転換点こそが憲法9条だったのだという。まさに、新憲法によって「安らぎを明るさ」を読み取ったのであり、彼らにとっての「新しい時代と生活のはじまり」だったのである。
この変化はまさに180°の転換であったと思う。しかし、矛盾をはらみつつも、田にとってみれば特攻と新憲法は「若い人たちからすれば歴史だが自分にとっては現実」であるのだ。
彼の議員としての平和問題への取り組みはそうした背景抜きに語れない。そのことが一面においてリアリズム的な平和論の取り組みを後退させてしまった可能性を指摘することは容易い。しかし、特攻隊となり、多くの航海学校中の仲間を失った人間が、そうした経験をもとに平和問題へ取り組むことにいったい何の問題があるというのか。
戦争体験の風化が、近年の改憲議論の高まりの背景にあることを憂慮していたが、戦争体験者が少なくなるに連れて、風化が進むのは物理的な問題でもある。だとすれば、我々以降の世代には「戦争体験の語らい難さ」を自覚し、その中から少しでも多くの思いを掴み取っていくしかないのだろう。
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