あれぐろ・こん・ぶりお 2楽章

備忘録も兼ねて。日記なんて小学生の時宿題で課された1年間しか続かなかったのですが、負担にならないように書けば続くものですね。

世界のOZAWA

日時: 2009年12月8日(火)開演19:00
会場: 埼玉会館 大ホール

小澤征爾(指揮)、上原彩子(ピアノ)、新日本フィルハーモニー交響楽団

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番 ハ長調 作品15
ブルックナー交響曲第3番 ニ短調ワーグナー

 「世界のOZAWA」12年ぶりの埼玉公演である。
 12年前というと、まだウィーン国立歌劇場音楽監督の任を引き受ける前の話なので、ここまでの小澤フィーバー(フィーバーって昭和な響きだな)は無かったんじゃないかと思う。珍しく地元での公演だし、どうしても我が家のGMが聴いてみたいというので、チケットを入手して埼玉会館@浦和へ。

 埼玉会館大ホールはTBSドラマ「砂の器」にも使われたらしいんだけれど、建築家・前川國男による設計で、外観は煉瓦造りの、大ホールの内装は木材がふんだんに使われているホールである。にもかかわらず、クラシック使用ではないため、反響はいいんだけれど、豊かな残響に不足するホールだ。そして、今から40年以上前にできただけあって、前の椅子の間隔が狭くて、窮屈である。

 ちなみに、今回の客層は、いつも都響の定期公演とは違って、ご婦人方が多かったように思う。新日フィルの定期ってどんな雰囲気なんだろうか…。

 前半のベートーヴェン
 上原彩子は腰の据わった、質実剛健なピアニズムだ。それは決して重すぎるわけではなく、極めて充実したピアノの響きなのである。一音一音をゆるがせにしない、それでいて、しなやかさを併せ持っている。この曲はピアノの名手ベートーヴェンが自ら弾いた曲だけあって、技巧やダイナミズムはもちろんだが、20代のベートーヴェンの若々しさが現れていてヘンにかしこまって弾いても、なんだかなぁ、という曲だと思う。
 そう考えると、この曲のソリストとして、上原はまさにピッタリである。このところ、ベートーヴェンのピアノ協奏曲を立て続けに4曲聴いているが、今回がもっとも素晴らしい。
 さらに、もり立てるのが小澤による好サポートである。日本人同士による協奏曲、ということも今回はプラスに作用しているのだろう。もともと小澤は勘のいい指揮者で、CDで聴く協奏曲では優れた伴奏をしているが、今回も絶妙のテンポ感とタイミングで上原のピアノに合わせていく。まさにConcertoだ。これだけの「ベートーヴェン ピアノ協奏曲第1番」を聴かせるのは極めて珍しい。当分これに勝る演奏は聴くことはできないんじゃないか、と思わせる。

後半のブルックナー
 前回の都響定期、ブルックナーの5番を聴いたときにも書いたけれど、ブルックナー交響曲にはやはり豊かな残響が望ましい。響いてはいるものの、残響に不足するホールで演奏すると、かさついたブルックナーがなんとも間抜けな感じである。
 小澤の演奏はブルックナーの3番であっても、御年74歳であっても、今までと全く変わらない。イイ意味でも悪い意味でも、バーンスタインカラヤンの弟子なのだ。表現が適切かどうか分からないが、足して二で割ると小澤になる、ということか。しかし、バーンスタインカラヤンもどちらも終生、歳はとったが演奏そのものは円熟はしなかった。それは小澤も同じである。(別に悪い意味で言ってはいない)

 小澤が指揮台に立つと、オケは極めて豊かな音を出す。小さくまとまって仕上げるではなく、大きく体を伸ばしながら、それでいて、力まず、自然な感じに上手くまとまるのだ。この手腕は素晴らしいと言わなければなるまい。恐らく、ボストン響もベルリン・フィルも、ウィーン・フィルもそうなのだろう。力まない、大きく豊かな音と、それでいて繊細なピアニシモの自在さは、小澤が「世界のOZAWA」たるゆえんである。

 もう少し、今回の内容に沿ったハナシをすると、そういうわけで(どういうワケで?)、迫力のあるブルックナーであった。朝比奈隆、ヴァント等々のブルックナーばかりを聴いている人間にとってみれば、内声に不足しがちなブルックナーは、ブルックナーと言うよりもワーグナーのようで、今ひとつ乗れなかった、といえそうだ。だが、恐らく会場にいた人たちは満足したのではないだろうか。管理人としては、3番だったら実演で、このスタイルならアリじゃないかなぁ、と思った次第。
 どこで感想を書いているヒトがいるかもしれないが、ブルックナー休止やブルックナーリズムがそれほど徹底されてないような印象はあった。ブルックナー休止の場合は、埼玉会館というホールの特性上、わざと休止を短めにして、曲想が流れるように演奏していたという可能性もあるだろう。ブルックナーリズムに関して言えば、それがエグゼンツとして繰り返されるのだから、本能的に勢いに任せてしまいそうになるのだが、そこはガマンした方が良い(というより、その方が個人的に好きだ)。けれど、そうした方向の演奏ではなかった。
 そんなわけで、ブルックナーっぽくないブルックナーだったけれど、それでも聴かせてしまったのだから、やはり凄い。これがブルックナーの8番や9番だったらひどくガッカリしたかもしれないけどね。

 ついでながら、腰痛から未だ回復していないらしく、半分くらいは、もたれ掛かれるタイプの指揮台に腰を載せて指揮していた。それにしても、久しぶりの新日フィル、いいな。来シーズンはブリュッヘンもハーディングも来るから、定期会員になろうかなぁ…なんて結構真剣に考え中。