あれぐろ・こん・ぶりお 2楽章

備忘録も兼ねて。日記なんて小学生の時宿題で課された1年間しか続かなかったのですが、負担にならないように書けば続くものですね。

国際連合 軌跡と展望

国際連合―軌跡と展望 (岩波新書)

国際連合―軌跡と展望 (岩波新書)

 著者の明石康は言わずもがなだが、日本人初の国連職員である。

 その後の活動については知っての通りで、事務局長や、ユーゴ紛争やルワンダ内戦などで尽力をした。(もっとも、交渉一辺倒のその姿勢は欧米諸国から疑問を投げかけられてはいる。ただ、事態悪化までほったらかしておいた旧・宗主国の責任はあるのだが)

 本書はサブタイトルの「軌跡と展望」というコトバからも窺えるように国連の設立から現在に至るまでの活動記録である。学者やジャーナリストのように外から見たのではなく、あくまでも事務方としての内側からの記録とでも言えばいいだろうか。 

 第一次世界大戦後に出来た「国際連盟」から、その機能不全が第二次大戦に繋がり、戦後そうした反省点を生かして国際連合へと新しく設立し直されるまでの前史は高校レベルの知識があれば当然知ってはいるだろうが、個々で新たに知るヒトもいるだろう。最大の特徴は主権平等の原則の一方で、大国による安全保障体制を築く、その二面性にあると言える。

 そして人権問題・地域紛争にたいして国連がPKO活動を通じてどのように関与していったのか編年体形式でまとめ上げている。いずれにせよ、高校の「政治経済 資料集」などで採り上げられているような事例なのだが、余程の「高校政経プロパー」でない限り覚えていないだろう。

 一般の読者にとってこれほどの国際的人権問題があるのかと驚くハズである。ただ、そうした紛争に対して、国連の事務方としてどんな状況であろうと対応せざるを得ない(=見捨てるわけにはいかない)という困難さが文章からも伝わってくる。(それと比べれば、自国の都合に合わせて軍を派遣したり撤兵できたりする先進国首脳の国連への批判や失望はある種、無責任であろうと感じられる。)

 
 本書に難点を挙げるとすれば、安保理中心の観点のため、民生活動について触れられていないことだ。国連は安保理だけではなく、経済社会理事会や専門機関であるUNICEFやUNESCO、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、世界食糧計画(WFO)などが、途上国の医療・教育・食料支援や難民保護、文化の保護と相互交流などを行っている。そうした活動の実態についても触れられると良かった。