あれぐろ・こん・ぶりお 2楽章

備忘録も兼ねて。日記なんて小学生の時宿題で課された1年間しか続かなかったのですが、負担にならないように書けば続くものですね。

変わらずにある、その気持ち@やさしい嘘と贈り物

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 ネタバレしているので、気になるヒトは引き返した方が無難。

 まずシネマ・トゥデイのあらすじと解説から。

あらすじ
小さな町に一人で暮らす老人ロバート(マーティン・ランドー)は、孤独な日々を過ごしていた。そんなある日、メアリー(エレン・バースティン)という美しい女性に出会い、彼の味気ない日常は心ときめく日々へと変わっていく。しかし、実は彼が恋した女性は自分の妻であり、認知症で記憶をなくしたロバートを家族が見守っていたのだった……。

解説
認知症で記憶をなくした老人が、彼を気遣う家族に見守られながら自分の妻に恋をする姿を描いた人間ドラマ。主人公の老夫婦を、共にオスカー俳優のマーティン・ランドーエレン・バースティンが演じる。数々の巨匠たちの作品に出演してきた名優二人を主演に迎え、シリアスな内容ながら心温まる感動作に仕上げたのは、本作で長編初監督を果たす新鋭ニコラス・ファクラー。妻から夫へ、娘・息子から父へ、ロバートを愛するがゆえのやさしいうそが胸に迫る。


 ということで、このあらすじと解説ですべてを物語ってしまっている(苦笑)。
 しかし、それでは元も子もないので、感想をば・・・。

 内容は、上記引用の通りである。ただ、主人公であるロバートが認知症であるという設定は最後にならないと分からない仕掛けになっている。そして、あまりその仕掛けというか、種明かしはハッキリとしたカタチでは描かれない。その意味で言えばあまり丁寧に「分からせよう」という意図はない映画だ。
 にもかかわらず、予告編や解説で「認知症」という言葉が出てきてしまうので、観る前にタイトルの意図するところがすべて分かってしまうと言う決定的なマイナス面がある。


 しかし、である。初めてデートする、ロバートとメアリーの会話など、恋に年齢は関係ないと言わんばかりの初々しさというか、ここで表現される二人の芝居は過去の思い出に浸るノスタルジーなどでは決してなく、年齢なんて関係ない、現在進行形の二人の恋愛なのである。そしてそれが微笑ましくもあり、美しい。

 もっとも、現在進行形といっても、そこは人生の経験を重ねた二人である。去りゆく列車を全力で走って追いかけるような「青春のテンプレート」的な展開はない。しかし、そうでありながらにして、逆説的に、心はいつまでも老いることなく恋し続けられる、その様子を表現しているのは凄いことなのだ。

 この映画で魅せるマーティン・ランドーとエレン・バーンスティンは本当に素晴らしい。特に老いたロバートを演じるランドーが初恋に出会ったかのように、恋するドキドキ感が溢れ出て、観ているこっちまで楽しくなってしまう。
 バーンスティンも(あとでそれは恋と言うよりも長年連れ添った夫に対する愛であることがわかるのであるが)「美しい」。これは映画を観て頂くしかない。結論から言えば、人間老いるのは避けられないとしても、その「老い方」においては、そのひと個人の生き方や気の持ちようがハッキリと反映されているのだろう。だからメアリーと出会ってからのロバートの生き生きとした様子はそれまでとの対比もあり非常に鮮やかに描かれる。

 難点は、そうした幸せな二人にある「認知症」であるという厳然たる現実を暗示させる演出が稚拙なところであろう。スモークの中に漂う赤と青の絡み合うヒモのようなシーンが散見されるのだが、コレはもっとなんとかならないのか? むしろ無い方が良かった(もっと別の表現があっただろう)。

 そうは言っても日本では「美しく歳を重ねた」老人や老夫婦に対する敬愛の念がとりわけ深い国民性もあって、この映画を好意的に見ることが出来るんじゃないかと思う。