開国と幕末改革 (講談社日本の歴史18)
- 作者: 井上勝生
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/12/10
- メディア: 文庫
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そうではなく、江戸幕府は黒船来航というインパクトを長崎奉行はじめとする幕府役人の総力を挙げて受け止め、そのなかで漸進的に開国へ舵を切っていこうとした跡が克明に描かれる。とりわけ折衝役になった役人とペリーらとのやりとりはスリリングであり、彼らの持っていた国際情勢への見通しと、その分析能力の高さは幕末期においても江戸幕府の役人たちは烏合の衆では決してなかったことを物語る。
また、当時の宮廷内部でのパワーバランスが紹介されているのは興味深い。従来は危機に際してリーダーシップを孝明天皇が発揮したように描かれがちだったが、近衞や鷹司ら摂家貴族らが宮中の決定に果たした役割の大きさも窺い知れる。正統性がなかった孝明天皇はそれ故に皇国・尊皇思想に傾斜していったこと。だが、徳川慶喜を個人的に信頼しており、倒幕の意志はなかったことなど、多面的に紹介されており興味深い。
そうした孝明天皇が急死したことによって、当時の幕府や朝廷の政治力学は大きく変動し、結局、幕府は滅びることになる。だが、ここで紹介されるのは、この時代の政治並びに社会の多様性であり、この多様性は既に近代という時代の幕開けであったことを予兆させている。この幕末の動乱の中で民衆の運動も活発になっており、長州での一気の広がりについても考察されている。
贅沢を言えば、著者の専門が近世外交史であるようなので、どうしても政策決定過程とその関係者に重きを置いているきらいがある。もっと、民衆の運動に即した説明や文化的な背景などもあれば、討幕運動がかくも首尾よく(!?)進んだことの理解にもなると思う。 ともあれ、新しい発見がたくさん得られる良書だろう。