あれぐろ・こん・ぶりお 2楽章

備忘録も兼ねて。日記なんて小学生の時宿題で課された1年間しか続かなかったのですが、負担にならないように書けば続くものですね。

東京都交響楽団 第741回 定期演奏会Aシリーズ

2012年9月20日(木)

東京文化会館

出演者

指揮:エリアフ・インバル
バリトン:小森輝彦

新・マーラー・ツィクルス1
マーラーさすらう若人の歌
マーラー交響曲第1番 ニ長調「巨人」


 インバルによるマーラー・チクルスの1回目がいよいよ始まった。来シーズンで任期満了となり、ラストはマーラーの9番と言うことだが、インバルが首席に就いてから結構な数のマーラーを演奏しているが、ここに来て改めて「チクルス」としてマーラーを演奏するというのだから面白い。ヒトによってはいい加減うんざりして着始めてもいるのだろうが。

 プログラムは「さすらう若人の歌」と「巨人」の組み合わせだ。親子のような兄弟のような関係にある2曲だ。バリトンの小森輝彦は「表情」豊かに歌っていた。管理人は前列に陣取っているので、十分な声量を楽しめたが、5階席ではどう聞こえるんだろうとちょっと心配でもある。文化会館はオペラシティやサントリーと比べると、天井がかなり高いからヴァイオリン協奏曲もそうなんだけれど、オケの音量に負けていないか気になることがしばしばだ。

 繰り返しになるけれど、さすらう若人の歌と巨人は前者のモチーフを後者に転用しているため、そこ・ここに共通のフレーズが出てくる。それを意識しているんだろうなぁ、と思っていた。だが、インバルはさすらう若人の歌のイメージを感じさせない、これはマーラー交響曲である、とでも言わんばかりの抉りの利いた演奏をしていた。
もっとも、芸術劇場、みなとみらいと経て、3度目は真打ち登場とでも言うべく、文化会館での「定期演奏会」である。上野の定期はいつもそうだが、弾く方だけでなく、「聴く方」も真剣勝負だ(笑い)。聴衆も含めて作り出す、ホール全体を包み込む緊張感が何とも言えない。

演奏も回数をこなしているだけあって、オケも安定感ある演奏をしていた。インバルの指示は多岐に、細微に及んでおり、うねるようなグリッサンドやルバートにも都響は完全について行く。インバルの演奏スタイルはデコボコをさらに際立たせるようにデコボコさせて演奏する傾向があって、ブルックナーなどでは恣意的とも言えるようなテンポやアクセントをつけている(ように自分には感じられる)。これは時には聴いていて疲れてしまうこともあるのだけれど、、マーラーではそれがインバル自身のものにすっかりと消化されているため、不自然さを全く感じさせない。
 第1楽章冒頭の弦(フラジオレットでの演奏)の緊張感から、ただ事でない雰囲気を感じさせた。管楽器には硬いところがあったが、続けてアタッカで演奏される、第2楽章のチェロのオスティナート、それに続くヴァイオリンのリズムも凄い。スタッカートも利いている。弓が切れるんじゃないかと思うほど、グイグイと食い込む演奏だ。

 第3楽章にはいると、序盤の管楽器の硬さはすっかりとれていた。木管の上手さはため息が出そうになるし、終楽章はアンサンブルの乱れもなく、大きな音も出ているんだけれど「質感」を感じさせる演奏だった。コーダの箇所は、文化会館の天井が落っこちてくるんじゃないかというくらいの迫力だ。それはただ鳴らすだけではダメで、繰り返しになるが、「質感」も重要なのだろう。
 小澤や朝比奈もそうだったが、インバルが振るとオケはいつもの1.5倍くらいの音を出す。それでいて、それだけの音を出した先に、音楽を表現しようとする意志が感じられる。マーラーに関して言えば、これだけの実演は海外のオケでも珍しいのではないか。

 ともあれ、大熱演で終わった定期演奏会だった。