国際政治学の祖(の1人)ともいえるE.H.カーを思想史的に読み解く本である。カーといえば『危機の二十年』や
ソ連史研究ばかりが着目されるが、著者は知識人(文芸批評家)としてのカーの側面に注目している。「二十年」を書く前にカーは
ドストエフスキーや
バクーニンに関する伝記を世に問うている。そうした初期作品群の持つ「理想と現実の相克」を意識しながらカーは「二十年」を書いたのだという。従ってカーの現実主義は
進歩主義的な理想主義を伴った現実主義であり単なる既成事実追認とは異なる。テーマ設定がユニークな意欲作だと思う。