- 作者: 猪瀬直樹
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2010/06/25
- メディア: 文庫
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本書は、総理大臣直属のもとに集められた30代の壮年エリート(官僚、民間含む)たちが総力戦についての研究と教育を行っていた「総力戦研究所」を軸としたルポである。頭でっかちの学生ではなく、また、分別がついて妙に物わかりの良い中高年ではなく、30代の気鋭のエリートたちを集めてそれまで日本において確固たる意味づけがなされなかった「総力戦」に対して研究する組織が作られたわけである。とはいえ、書かれている内容からすると、小さい塾やゼミのような感じである。1年間、学校生活を送って、机上演習というシミュレーションをすることで総力戦の考え方を深め、またそれぞれの所属に帰って行く。
この総力戦研究所の意見を政策に具体的に反映させていこうという意思はあったのかもしれないが、ほとんど、いや全くと言って良いほど現実政治には影響を与えることはなかった。
さて、そんな彼らの出した総力戦の結論は「日米開戦日本必敗」であった。そして面白いことにこの予測は東條英機も共有していた。しかし官僚軍人の東條は自らが陸相時代に主張した強硬論を覆すことが出来ず戦争へと突入していく。
既に、全体の流れとして日米開戦は既定路線となり、それに対して企画院をはじめとする官僚機構は数字を作り上げていく。客観的な物差しである統計に、我々人間が意味を付与していった結果、巷でもよく聞かれる緒戦だけなら勝利ができるという、ある結論が導かれる。
ウェーバーが指摘する官僚制の負の側面、藤田省三が指摘する明治憲法体制の特徴と欠陥のアマルガムとして昭和16年の夏は訪れたのであろう。