あれぐろ・こん・ぶりお 2楽章

備忘録も兼ねて。日記なんて小学生の時宿題で課された1年間しか続かなかったのですが、負担にならないように書けば続くものですね。

テクノとクラシックの同居

ピアノ・エトワール・シリーズVol.12
フランチェスコ・トリスターノ・シュリメ

2010年2月20日(土)開演14:00
彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール

ドビュッシー前奏曲集第1巻
J. S. バッハ:パルティータ第2番 ハ短調 BWV826
クレイグ(シュリメ編曲):テクノロジー
ハイドン:ピアノ・ソナタ ハ長調 Hob.XVI:48

アンコール
シュリメ:バルセロネータ・トリスト
ストラヴィンスキー:タンゴ


 「プレトニョフが見いだしたルクセンブルクの奇才」という触れ込みの今日のピアニスト、シュリメ。1981年生まれで現在はバルセロナを拠点にアメリカやヨーロッパで活躍しているそうだ。(HPにおいて英語で挨拶していたけれど、管理人でも分かるキレイな英語だった)
 「奇才」なんて評されるゆえんは、恐らく彼のバッハ、ハイドンというバロックや古典、それにドビュッシーのような印象派音楽、さらにはテクノにジャズといった幅広い音楽を融合させてしまう縦横無尽さにあるのだろう。クラシック音楽が、音楽における「型」を重視するとすれば、そこを突き抜けてしまうのがシュリメなのである。もちろん、だからその音楽が感動的である、ということは必ずしも意味しないのであるが。

 ドビュッシーは非常に表現しづらい音楽だった。あまり音楽が流れるような演奏ではない。もともと、ドビュッシーの曲には「そういう」曲があるモノなのだけれど、それでも、シュリメの演奏はドビュッシーの音響空間とでもいうべき、音の雰囲気に神経を使った演奏だった。管理人はモニク・アースのような演奏がひとつイメージとしてあるので、もっと大らか、というか楽しく弾いても良いのになぁ、なんて思ってしまう。
 しかし、今まで気づかなかったのだが、ドビュッシーは「20世紀まで生きた作曲家」だったのだ。この当たり前の事実に今回初めて気付かされた。というのも、時に魅せる強烈な和音は、管理人にドビュッシーの音楽が印象派を通り越して、もうすぐそこにストラヴィンスキーが待ちかまえているトコロにまで届こうとしていたことを思い知らさせる。
 もちろん、ドビュッシー自身がそういう音楽を志向したわけではないのだが、音楽史的にストラヴィンスキーが現れるのは必然であった。そんな演奏だった。

 後半はバッハから。
 バッハはコレもまた珍しい。コーラルではないバッハ。主旋律と副旋律があるかのようなバッハ。今まで「バッハはこんなカタチ」と思って聴いていた人間にはハンマーでアタマを殴られるような感覚だ。時にバッハの曲に感じる神々しさはなくなる一方で、あたかも知的なパズルゲームのようなバッハが立ち現れる。

シュリメ編曲によるクレイグのテクノロジーはオスティナートが延々と続くような曲。ボレロのようなモチーフがあればいいけれど、そういうのもあまりないので、ハッキリ言えばよく分からない。まさにコンテンポラリーである。途中で、椅子から立ち上がったから、なんだ弦の調子が悪いのかと思ったら、それもまた演奏だった。鍵盤を叩きながら、立ち上がってピアノの弦を手で押さえる。この意味でピアノは弦楽器である。

 そのままアタッカでハイドンを弾いていたが、ハイドンはすごいな。ウラを返せば、クラシックの世界は古典派を超えられなかった、といえるのかもしれない。もちろん、ショパンらのロマン派には傑作も多い。しかし、今回これらの曲を聴いて、ハイドンが一番偉いように感じてしまったのは管理人の脳ミソと感性は古くさくすり切れる寸前なのだろう(苦笑)。けれど、ハイドンは均整のとれた非常に素晴らしい演奏。今回はモーツァルトベートーヴェンは無いが、弾いたらどんな演奏をするのだろうか。

 アンコールのシュリメの曲も、印象は前述のテクノロジーと一緒。執拗に繰り返されるパッセージは、プログレ音楽のようでもある。
 
 そして、アンコールのもう一曲はストラヴィンスキー。シュリメからこの作曲者名を聴いたときに、やっぱりな、と思ってしまった。管理人にとってストラヴィンスキーピアノ曲は非常にレア。ピアニストとしても活躍したようだから、ピアノ曲に傑作があっても良さそうなんだけど、どうもイマイチピンと来ない。でも、すぐに「ああ、ストラヴィンスキーだ」と思った(←なんのこっちゃ)。逆に言えば、シュリメとストラヴィンスキーって相性が良いように思う。


 バッハの協奏曲がCD化されているみたいだけど、聴いてみたいなぁ…なんて思った次第。ラヴェルの協奏曲やってよ。ベートーヴェンとかさ。身長も高くて、ピアニストというよりモデルのような容姿だったから、メディアの採り上げ方によっては人気が出そうなのにね。「ルクセンブルクのイケメンピアニスト」ってさ。

 ちなみに、チラシは文化会館の演奏会のヤツです。すんません。