会場:サントリーホール
指揮:エリアフ・インバル
メゾソプラノ:イリス・フェルミリオン
テノール:ロバート・ギャンビル
先週の定期演奏会で僅かに席が残っているというから、慌てて買った、都響&インバルのマーラー・チクルス。今回は「大地の歌」である。
大地の歌は、交響曲というか連作歌曲というか、位置づけは難しいかも。ウィキペディアでも
「大地の歌」というメインタイトルに続き、副題として「テノールとアルト(またはバリトン)とオーケストラのための交響曲」(Eine Symphonie für eine Tenor und Alt (oder Bariton) Stimme und Orchester )とあり、通常マーラーが9番目に作曲した交響曲として位置づけられるが、連作歌曲としての性格も併せ持っており、「交響曲」と「管弦楽伴奏による連作歌曲」とを融合させたような作品であるといえる。このため、交響曲としてはかなり破格の存在であり、「9番目の交響曲」であるという点も影響してか、マーラーは「第○番」といった番号を与えなかった(詳しくは第九のジンクスの項を参照)。なお、ウニフェルザル出版社から出版されている決定版総譜には「大地の歌」とだけ記されていて「交響曲」とは全く記されていないところを見ると、歌曲集としての重みも非常に強い。
6楽章構成になっており、1、3、5楽章がテノールと2,4,6楽章がアルト(当日はメゾソプラノ)によって歌われる。でもって、この曲の原曲となったのは李白や孟浩然、王維ら盛唐の詩人たちによる漢詩のドイツ編訳を自由にチョイスして歌曲としている。ともあれ、そんな理解で。
亡き子をしのぶ歌は叙情性たっぷり。フェルミリオンの歌声は本当に素晴らしい。都響の本気度が窺える人選だ。これだけのメゾソプラノの歌唱を聴けるのだから有り難い。もっとも、管理人は今週、かなりヘビーだったため、この曲では集中力を欠いてしまう場面もあったのが惜しい。年度末は大変だからなぁ…。
なので、メインの大地の歌を中心に。
以前、東京文化会館で聴いた7番や、それこそこないだのショスタコーヴィチの4番のようなイメージでいたら大きく印象が違う演奏である。あの時はホールの響きもあるのだろう、音の鋭利さとでも言うのだろうか、マーラーにせよ、ショスタコーヴィチにせよ、デコボコ感がかなりあって、曲の革新性みたいなものが随分と強調されるように思える。
でも、今回は、思っていた以上にマイルドな演奏なのだ。それはサントリーホールだからか、インバルが「大地の歌はかくあるべし」と思っているのか良く分からない。たぶん、要素としては後者の方が強いんじゃないかと勝手に思っている。
テノールのギャンビルもなかなか良い声をしている。ただし、1楽章は李白の「大地の哀愁に寄せる酒の歌」だから、もっとスケール感があってそこに達観した人生観のようなものが垣間見られるような大らかさが欲しい。気合いが入っているんだけれど、やや劇的な調子。オペラならそうなんだろうねぇ…。しかしオーケストラは一糸乱れず序盤から素晴らしい演奏だ。特に弦の厚みとアンサンブルは素晴らしい。
フェルミリオンの歌は本当に素晴らしい。これぞプロフェッショナル!!と言いたくなる演奏だった。2楽章終わった段階でブラボーが出てくるんじゃないかと思うほどの充実ぶりだ。
文化会館で聴くインバルだ、と思ったのは5楽章の「春に酔える者」での対比だろう。ダイナミックなところとそうでないところがしっかりついていて面白い。
しかし、今回一番の聴きどころはやはり6楽章の「告別」だと思う。これは本当にすごい演奏だ。特にフルート、クラリネット、オーボエ、ファゴットの木管群が秀逸な演奏を聴かせてくれた。フルートなんて、本当にすごい。それしか言えない。まさか、この曲を聴きながらカタルシスを感じるとは思わなかった。フォーレのレクイエムとか、そんな曲で感じるような、カタルシスをここでも感じる。なんていうのかな、それこそ仙人にでもなるかのような、世俗を脱していくような、そんな感じなのである。
Ewig... ewig...(永遠に、永遠に…)という最後のところなど、あまりに感動的すぎて涙が出そうだった。付け加えると、今回は聴衆も品行方正で(笑い)、最後の一音が消えた後、完全にホールは静寂に包まれ、音楽の余韻に皆が浸っていた。これはなかなか珍しい。演奏はすごく良かったからブラボーが出てもおかしくないけど、誰もがその余韻を楽しんでいた。
ともあれ、素晴らしいの一言である。ベルティーニでも聴いたけれど、今回の方が震えるような感動だったなぁ。あの時も「大地の歌聴いたぞ」って思ったけれど。
付け加えると、今年度最後の公演だったので、恒例の(定年)退職する団員に舞台上で花束を渡すセレモニーもあった。ベルティーニ、朝比奈、フルネ、デプリースト…。ここに挙げたなかでデプさん以外は物故したけれど、彼らのタクトの下で本当に良い演奏を聴かせてもらった。ありがとうございました。お疲れ様でした!!