あれぐろ・こん・ぶりお 2楽章

備忘録も兼ねて。日記なんて小学生の時宿題で課された1年間しか続かなかったのですが、負担にならないように書けば続くものですね。

薬師院仁志『社会主義の誤解を解く』

社会主義の誤解を解く (光文社新書)

社会主義の誤解を解く (光文社新書)

 著者は帝塚山大学教授で専門は社会学のようである。同じ光文社新書から『日本とフランス 二つの民主主義』をかつて出しており、それはなかなか比較社会学的な視点で面白かったが、それに比べると本書は著者の専門からは少し離れるからだろうか、若干記述に無理があるように思える。 まず、本書のタイトルこれから手に取る読者の誤解を招くかもしれないと思った。それは本書の目的が「社会主義の誤解を解く」ものであったとしても、本書の記述は労働運動史および社会主義運動史であるからだ。
 むろん、二つの歴史は相互に関係し合っているし、それが1冊の新書で関係づけられて説明したモノは今までなかったから、本書の存在は貴重である。政治思想史・社会思想史・労働史的な分野に関心がある人は当然の押さえるべきだし、広く社会科学に興味のある人は読んでおいて損はない本である。本来であればこうした素養は高校世界史を丹念に学習すれば身につくモノであるが、残念ながら昨今のTV知識人や政治家たちを見るとそれを期待するのは難しい。
 本書において社会主義共産主義を対比的に説明し、特に西ヨーロッパにおいて広く市民の支持を得た社会民主主義思想をベースに話は展開されている。つまり、「社会主義の誤解を解く」とは日本において社会主義ソ連・中国・北朝鮮的な「怪しい」思想のように思われているが、ドイツ社民党フランス社会党イギリス労働党など、「社会民主主義思想」のバリエーションがあって、アメリカ的なグローバリゼーションが広まって貧富差も拡大しているけど、それだけが総てじゃないよ、というのが本書の目的だろう。
 運動史に重点が置かれているため、じゃあ、「社会民主主義思想」って何か?ということには答えていないし、マルクスエンゲルスの思想も共産主義「だけ」に結びつくモノではない。しかし、それを政治思想が専門でない著者に求めるのはいささか厳しいだろう。たとえば、イギリスのフェビアにズムを新書で知ろうと思えば名古忠行『イギリス人の国家観・自由観』 (丸善ライブラリー) を読むと、少しは理解が進むと思う。