現代日本の政党デモクラシー (岩波新書)
- 作者: 中北浩爾
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2012/12/21
- メディア: 新書
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それに、岩波新書からはこの本とは別に、そもそも石川真澄・山口二郎両氏による『日本政治史』もあり、定番化している。なので、それも合わせると当時の政治改革論議のもうちょっとレンジの広い見通しが得られるかもしれない。
先に挙げたとおり、比較政治学の知見も生かされているために、「党と選挙制度」ならびに「党と統治機構」、選挙制度が影響与えるデモクラシーの形態などを的確に捉えているために、そうした現代政治学ないしは、現代日本政治論のサブテキストとしても(学部の1,2年生ならば導入として)使えると思う。
たとえば、後 房雄 名古屋大教授は自身のwebで次のように本書を捉えている。(一部を紹介)
具体的には、小選挙区制を基礎にした「競争デモクラシー」をシュンペーター型とダウンズ型に区別したうえで、政治改革派のなかに両方の潮流があったことを明らかにしていることが注目される。
前者は、「エリート競争型」と呼ばれ、その想定する有権者は個々の政策に関する十分な判断能力をもたず、選挙で有能な人物を見極めて投票するのがせいぜいである。シュンペーターは、このエリート間の有権者の支持を求める競争に民主主義の最低限の要素を求めた。典型的には小沢一郎の立場とされる。
ダウンズは、民主主義を市場モデルで解釈し、市場における企業の代わりである政党が得票の最大化をめざし、消費者の代わりである有権者が効用の最大化をめざして、それぞれ合理的に行動すると想定する。これは「市場競争型」と呼ばれ、マニフェストが想定する政治イメージと近いとされる。
後房雄のブログ 中北浩爾『現代日本の政党デモクラシー』 [2013年01月04日(Fri)]
http://blog.canpan.info/jacevo-board/archive/368
もちろん、こうした解釈には異論もあるだろう。しかし、小泉内閣による郵政選挙、2009年の政権交代選挙、そして今回の総選挙と、管理人の個人的な視点から見ても選挙結果は「極端から極端へ」揺れ動いており、安定性がない。その一因に日本の選挙制度が挙げられるのは至極当然のように思う。 思想史プロパーからすれば、政党政治にも関わらず理念から遠く離れた市場競争的なデモクラシーのあり方は異常に映るのではあるが、ダウンズのモデルによれば、むしろ、正常運転なのだろう。
この競争的な市場デモクラシーにたいして終章では比例代表を軸とした政党デモクラシーを志向しているけれど、それは読者の判断でイイと思う。管理人個人は、国民の10%の支持があれば、その声は国政に反映すべきであると思うし、価値観が多元化した今日の社会においてそれでは政治が不安定になるというのであれば、ドイツの事例も参考に「統治機構を安定をもたらすような制度設計にあらかじめ作り替える」という視点があってもイイ。
ともあれ、繰り返しになるが、政治改革史、現代日本政治論、比較政治学などに興味があるひとにはオススメ。政治学徒は必読の1冊になるだろう。